『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』を読了。
労働史と読書史を踏まえたうえで、「本が読めなくなるのは『個人の能力と達成を神聖視する新自由主義的思想』と『頑張っている人ほど称賛される風潮』が原因なんや! みんなで余暇ありきの(半身的な)働き方をしていこうぜ!」と喝破している本。
前半パートの、その年代に売れた本のジャンルから当時人々が求めていたものを紐解き、「労働者にとっての読書の立ち位置」の変遷をたどっていく手腕にはあっぱれの一言。
「『労働』と『文化』を両立するために、半身社会を作っていこうよ!」という提言も、「給料より業界・業種より、何よりライフワークバランスが大事!!!」と口を開く度に叫んでいる私には、首がもげるほど激烈に同意できる内容で最高でした。(ニートなんですけどね。)
とはいえ、「この本で『そもそも本を読むことが苦手な人』の心は動くのだろうか?」という疑問は残りまして、
- 時間があっても文化的なことが出来ない人もたくさんいるのでは?
→「認知の耐性(答えがあいまいな状態に耐える能力)」がないと手軽なコンテンツを消費し続けてしまう。 - 大多数の現代人にとっては、「文化と労働の両立」 < 「FIRE(経済的自立) = 労働からの開放」 なのでは?
→文化的な活動への関心が薄い人は、経済的なリスクを背負ってバランスを取るよりも、資産を増やすことに注力する方を選びそう。
みたいな議論は出てこないんですよ。
1の問題については、サイエンスライターのパレオな男こと鈴木祐さんの記事で 『現代における大問題「すぐに手軽な答えを求める態度」を鍛える方法とは?』 『答えをすぐに求めがちな現代ですけど「答えを待てる人間は強いよ!」っていうシンシナティ大学の話を見てみましょう。』 『「読書にはこんなに良いことがあるよー」のまとめ#1』 『「読書にはこんなに良いことがあるよー」のまとめ#2』 あたりが参考になる気がします。
あと私の場合、鈴木祐さんの著書『YOUR TIME ユア・タイム 4063の科学データで導き出した、あなたの人生を変える最後の時間術』に書いてあることを実践したら小説が読めるようになったので、そちらもオススメ。
2の問題は正直どうアプローチしていけばいいかよく分からないです。
『ステータス・ゲームの心理学: なぜ人は他者より優位に立ちたいのか』とか『WORLD WITHOUT WORK――AI時代の新「大きな政府」論』とかも関係してくる?
だれか「半身社会を実現するために読むべき本まとめ」とか作ってくれないかなぁ…
ちなみに、個人的な一番の収穫はこの言葉に出会えたことでした。
自分から遠く離れた文脈に触れること―それが読書なのである。
引用:『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』
書評家だからこそ生み出せた名文。痺れるぜ…
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